茨城県は水戸芸術館の『内藤 礼―明るい地上には あなたの姿が見える』に行ってきました。
内藤礼の作品といえば、『豊島美術館』と直島の『きんざ』が双璧。というか、常設として見られるのは、このふたつだけでしょうか。
両方とも鑑賞しましたが、この人の作品って、あえて悪しざまにいえば相当「地味」。(豊島美術館の良さは、あの建築物のすばらしさに依って立つ部分が大きいので、中身だけ取り出せばやはり派手さはない。「地味」という言葉の響きが悪いのであれば、「滋味」と言い換えます)
そんな滋味深い内藤礼が、どんな個展をやるのか気になりすぎて煩悶した結果、水戸くんだりまで来たわけです。
で、結論から言ってしまえば、内藤礼は、デュシャン以上にデュシャンでした。
試される俺たち鑑賞者。
はじめての水戸黄門
東京駅から高速バスに乗車。
本来は2時間程度で着くらしいのですが、事故による渋滞があったので、30分ほど遅れて水戸駅に到着。はじめて水戸に来ました。
駅前の水戸黄門さま御一行を冷やかしつつ、北口でレンタサイクル。500円。
目的地の水戸芸術館には大きなタワーが建っていて、これがよい目印となります。
ことさらに地図を見なくても、タワーの見える方角へ向かえばいいので、RPG気分のまま着きました。
館内のクロークに荷物を預けて、展覧会にいざ侵入。
ここは冥府か癲狂院か
一輪の花が活けてあったり。
水を溜めた瓶がひっそりと置いてあったり。
天井から長くてほっそーい糸が垂らしてあったり。
小指ほどの大きさの人形がチョコマカ置いてあったり。
くしゃくしゃにした雑誌の1ページや風船がぶら下げてあったり。
ほっそーい水路が設置してあって、来場者に息を吹きかけさせたり。
うっすーく色をにじませただけの白いキャンバスがひたすら並べてあったり。
美術館そのものの空間を作品として提示しており、内藤礼が設置した「もの」は、自然光が注ぎ降る館内の添え物でしかないような状況です。
注意深く観察しないと見えないような細い糸を、来場者はカンダタさながらに目を凝らして鑑賞する。そんな光景は、地獄的ですらありました。
そして、単なる風船や水を鑑賞して、得心したようにうんうん頷いたり、ベンチに腰かけ呆けた顔で熟視する我々の姿は、はたから見れば、白痴か精神病者でありましょう。真っ白すぎる美術館の空間に長くいると、ここが精神病棟のように思えてきました。
天然デュシャンの内藤礼
レディメイドなる既製品を芸術作品として提示し、世界を現代アートという沼に引きずり込んだ張本人のマルセル・デュシャン。
デュシャンの作品は、挑戦的・批評的な精神があふれてるので、かえって意図がつかみやすいように思えます。
しかし、デュシャンと同じように、糸や瓶などの既製品、そして美術館そのものまでをそのまま提示してくる内藤礼からは、デュシャンのような皮肉で反逆な精神は感じられません。
内藤礼は、天然な感じのままにデュシャンの手法を用いながらも、デュシャンとは違った、包容・許容・認容……、そういった受容精神に満ちあふれています。
あかるく・ひらけてる、胎内めぐりって感じです。
そして、展示物の中には持ち帰ることができる紙があり、そこに小さく書かれたのは「おいで」の文字。
内藤礼の作品は、ふところが広いというか、なんにもなさすぎの、純白の画用紙みたいなもんなので、鑑賞者は自分の妄執を好き勝手に投影できてしまう。
そんでもって、挙句の果てには「おいで」と勧誘されてしまう。
正直、マジやべえなって思いました。
好きとか嫌いとかじゃなくて、ヤバいよヤバいよ、ヤバタノオロチ。
なお、私が行った日は、会田誠が来てたらしく、同伴者にいろいろ解説みたいなのをしてたらしいです。
清楚な若い女性が…
— 会田誠 (@makotoaida) 2018年10月7日
オレの展覧会とは客層が違った… pic.twitter.com/uIPkoWKwr6
水戸芸術館、内藤礼展と水戸駅近くにオープンしたArtsIsozakiの雨宮庸介展へ。ArtsIsozakiは丸く切り抜いたシャッターが入り口になっていた。
— 岡田裕子 Okada Hiroko (@hirokook) 2018年10月7日
内藤礼は同行した会田さんの解説(?)がやかましくて静かな気分になるべき展示なのに邪魔された… https://t.co/mQ16WXlrQD
私は残念すぎることに時間帯が合わず、遭遇できなかったんですが、内藤礼とは真逆な会田誠がどういう風に捉えたのか、気になるところ。
あんこう、格さん、アルルカン。
気が違ってしまう寸前に出て、近くの「山翠」で、あんこう釜飯を食べました。
やっとこさ此岸に戻ってこれた気分です。
レジの前には、格さん(伊吹吾郎さん)のサインがありましたよ。お控えなすって。
食後は、茨城県近代美術館まで足を延ばして、『ポーラ美術館コレクション展』を鑑賞。11月に箱根へ行くので、その予行演習みたいなもんです。
一部の展示は、撮影オッケー。セザンヌの『アルルカン』がよかったです。
ふたたび内藤礼
ポラコレのあとは、もとに戻って内藤礼へ胎内回帰しました。当日であれば、その日のチケットで何度でも入れちゃうのです。自然光だけで鑑賞させる展覧会なので、夕暮れどきはどんなもんか確認しにきました。
日中に行ったときはどの部屋もふつうだったのに、夕方の館内は部屋によって色が違っています。最初の部屋は青く、まん中の部屋は昼どきに見たのと同じく白で、奥の部屋は黄色。天窓の具合で部屋の色が如実に変わるので、不思議な体験でした。
終わりぎわにも来てみてよかった、と思いつつ、「おいで」のある部屋は光がほとんど差し込まないため、狂気が加速。薄闇に漂う鑑賞者の群れは亡霊さながらで、ガンガンガン速に彼岸でした。マジやばすぎやっきょくよ。
旅の反省
帰りのバスは、またしても事故による渋滞の影響で、帰着が定刻より遅れる事態。
レイトショーの映画のチケットを買っていたため、帰りの車内でやきもきしてましたが、ダッシュで劇場に駆け込んで、どうにか『イコライザー2』の鑑賞に成功。
予定を詰め込みすぎたのは良くなかったです。
最後に水戸のよかったとこ2つ
1.水戸駅前に緑が広がる廃墟な空き地がある。
2.水戸芸術館のとなりにイケてる建物がある。