恥とマスは掻き捨てナマステ

ヨーグルトが好きです。アートと映画と音楽と野球は、もっと好きなようです。

クリント・イーストウッドが3Pする傑作、それが『運び屋』。

今年に入ってから9本の映画を劇場で観ました。その中で、今年ダントツでオールタイムベストに入れたいどころか、座右の銘画にすらしたいのが、クリント・イーストウッドの『運び屋』です。


★運び屋

クリントは『グラントリノ』以降も傑作・怪作を撮り続けてきました。そして最新作の『運び屋』では、老いとか枯れとかすっ飛ばして、ジジイのハッチャケ具合が最高潮。好き勝手に生きる老人の磊落っぷりに、俺の中のテロメアが勇気づけられました。

お話自体はとってもシンプルで、ジジイがヤクを運ぶ物語です。物語の構造は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と同じで、行って帰るだけ。といっても、マッドマックスの行って帰るは一回だけなのに対し、こちとら90歳のダーティハリーは行って帰るを十回以上も繰り返すピストン運動。

ヤクを運んでる途中に立ち寄るモーテルでは、女を買って3P。マフィアのボスに女をあてがわれ、ノリノリ3P。ジジーのピストン、止まりません。

このピストンジジーときたらエロだけに収まらず、言動も過激。黒人に出会えば、ナチュラル・ボーン・ニガーとばかりに差別語が口をついて出ちゃいます。

そして、承認欲求の塊みたいなジジーでもある。退役軍人の仲間たちにチヤホヤされたくて、稼いだ金をポンポン出しちゃう。飲み屋で若いおねーちゃんについついおごっちゃうダメオヤジいるでしょ。あれよあれ。

また、「インターネットはくだらん」とか言ってたのに、ネット通販の台頭で自分の商売を潰されたもんだから、路頭に迷った挙句に麻薬の運搬に手を出して、仕事に必要だからっていうんでメキシコ人にメールの打ち方を教えてもらっちゃう、お茶目なダーティジジー

娘の結婚式に顔を出さなかったせいで家族から12年以上も愛想尽かされてるような3Pエロクズジジーなのに、クリントの見た目の気高さと、90歳という高齢設定のせいで、観てる側はすっかりトリコにされてしまう。なにをやっても許されるジジーに私もなりたい。

映画の幕引きは実に立派なもので、このジジーだったらこうするだろうなっていうサッパリしたもの。

ジーは人生を他人に決めさせない。いさぎよく自分で決断する。ジタバタしない。こういうリバタリジジーに私も憧れます。ジジーは全員かくあるべし。極度の高齢社会に突入するジャパンにおいて、全ジジー必見の映画です。

クリントのフリーダムなリバタリアンっぷりに尿漏れが止まらない映画でしたが、デヴィッド・リンチの『ストレイト・ストーリー』や『世界最速のインディアン』など、老人と乗り物は相性がよいように思います。北野武の『龍三と七人の子分たち』も、最後ジジーどもがバスを暴走させるケッサク映画でしたしね。でもジジーは免許証を返納しようね!

 

以下は、ほかに観た映画の簡単な覚え書き。

ボヘミアン・ラプソディ

新宿ピカデリーの爆音上映で鑑賞。昨年に観たIMAX版のほうがよっぽど音圧が強くて、あのときは「We Will Rock You」で頭蓋骨と肋骨が震えました。IMAXが軍事用ヘリだとしたらピカデリーの爆音はドローン程度です。残念でした。

 

★ミスター・ガラス

18年前、渋谷のパンテオンで『アンブレイカブル』を観てから、私は一生シャマランについていくと決めました。そのトリロジーが時空を超えてとうとう完結。感慨深いなんてもんじゃない。まさにこういうのを待ってました。シャマラン最高。大風呂敷を広げた世界観なのに、画面上で繰り広げるスケールは極めて謙虚っていう、いつものシャマラン節。クライマックスは完成したばかりの高層ビルを舞台にしてド派手な大活劇!と思わせといて、そこでそのまんま終わるんかいという華麗などんでん返し。というより肩すかし。なんてどえらい作劇なんでしょう。こんなのシャマランしかやらないわ。ブルース・ウィリスサミュエル・L・ジャクソンジェームズ・マカヴォイという豪華なメンツを、こんなくだらねえ内容に起用しちゃう。盛大なムダ遣いっぷりが素晴らしい。『運び屋』がなければ、2019年の暫定ベスト1はこれでした。

 

ファースト・マン

デイミアン・チャゼルが大好きなジャズを封印して作った映画。題材が月面着陸なので英雄譚的な内容だと思っていたら全然違ったのでびっくり。全編に死の匂いが充満してて、とにかく地味で暗い。2回観たいとは思わないけど、好きな味のする映画です。

 

★フロントランナー

ヒュー・ジャックマン主演の、実話に基づくアメリカ大統領候補の映画。大好きなジェイソン・ライトマンの作品なので観たけど、扱ってる題材に興味がなさすぎたので、途中で寝ちゃいました。すいません。

 

★翔んで埼玉

テレビドラマレベルの映像なので映画としての評価を下すとなると厳しいけど、そんなのいったら野暮ってもんでしょう。とってもおもしろかったです。演技が拙すぎてNGギリギリっぽい京本政樹まで含めて、全員ハマり役なのがすごい。埼玉をディスるだけの話だと思ってたのに、ふつうに狛江や町田がヤバイ感じでディスられてました。『あまちゃん』で橋本愛が練馬をディスっていたときのような緊張感があり、ビクビクしながら笑いました。

 

★THE GUILTY/ギルティ

限定すぎる空間での話なので、どうしても地味。とはいえ、罪の意識に囚われているという設定と、最初から最後まで密閉空間のみで完結させるという映像が整合しているので、狙いは成功してると思います。でも、やっぱ地味。

 

★アクアマン

楽しめました。

 

★グリーンブック

スパイク・リーからぶっ叩かれてるアカデミー作品賞の映画。端正な演出で、実によかったです。主人公であるイタリア系用心棒のシンボルカラーは赤。赤系の服を着ていることが多く、冒頭では行儀の悪い酔客を殴ってシャツに血がつくのも、赤を殊更に強調する演出でしょう。一方、もうひとりの主人公であるピアニストのシンボルカラーは緑。グリーンブックの「グリーン」は人名ですが、冊子や車、そしてヒスイの色である緑を手に入れて、終盤ピアニストは車でひとり帰ります。映画の最後の舞台はクリスマス。赤と緑が邂逅すればクリスマスカラーは完成するのです。さぁ、どうなるでしょう、そりゃそうなるでしょうという、みんな期待通りのラスト。観ていて気持ちのいい映画でした。