男ふたり、国道沿いの歩道を歩く。
国道を走り去る車の音が、響いては消え、響いては残る。
イオンまであと26キロメートルを示す看板が左手にある。
軍手だろうか、男ふたりは白い手袋を身につけている。
男ふたりの目的地はイオンではない。
国道沿いにあるカラオケやらゲームやらの店舗。
男ふたりはバールのようなものを手にして店舗の裏口へと駆けていった。
「NINIFUMI」をみた。渋谷はユーロスペースで。
いつだって車の音が耳にこだましていた。
男がひとりいる。
男は、車の居ぬ間をねらって国道を渡ったり、スロットを打ったり。
枯れ木を眺めたり、コンビニのトイレに寄ったり。
カップラーメンを啜ったり、風力発電の風車に視線をやったり。
風車を見つめる男は、どこか清々しくもあり、憑きものが落ちたような表情を浮かべていた。
電力を彼方まで運んでくれる鉄塔が立ちならぶ風景。
国道沿いをどこまでも続けと電柱が立ちならぶ光景。
今となっては電気のことを考えると面倒な気持ちになる。
風車に見とれる男の表情が晴れやかであると信じたいだけかもしれない。
男は車を走らせ海辺に停める。
男は浜辺を歩く。
おだやかに打ち寄せる波。
またしても車の音が耳殻を洗いながす。
もしかしたら、それは車の音ではなかったのかもしれない。
波の音なのかも。
車の音に慣れきった耳は、波の音すら、車の音に聞こえてしまうのか。
車の群れが波に流されつづけた景色を思い出してしまう。
だから、今となっては波のことを考えると複雑な気持ちになる。
静かに到達する波の姿が禍々しく見えてしまう。
その禍々しさはやがて的中する。
男は車内のウインドウに目張りをする。
そうして練炭に火をつけた。
この世界を覆い尽くすものは、もはや死とアイドルだけなのかなと思う。
死とアイドル。
そのふたつは決して交わらないし、必然的に交わりもする。
またしても車の音が聞こえた。
男ふたりが何かを希求して駆けよった店舗を右手に映しながら。
あの国道はどこに続いているのだろうと思う。
やっぱり、どん詰まりだろうか。