恥とマスは掻き捨てナマステ

ヨーグルトが好きです。アートと映画と音楽と野球は、もっと好きなようです。

やっぱ悪人はロシア人じゃなきゃ。


「ソルト」を観た。いつもの豊洲で。
ハリウッド映画の脚本に必要不可欠な存在、それは主人公の目的を妨害する者。つまり敵だ。その敵の性質は、凶暴で傲慢で狡猾で残虐で、とにかく悪けりゃ悪いほどいいし、強けりゃ強いほどいい。最強のワルにさんざん苦しめられた主人公が、最後には見事に勝利を収める。その姿を観たとき、観客は大きなカタルシスを得られて、あーおもしろかった、となるのだから。ハリウッドとは、敵を見つけることにひたすら躍起になってきた業界といえる。
そんななか、永らく敵役の王座に君臨していたのはソ連だった。しかし壁は崩れ、ヒールはいなくなった。そうして月日は流れ、新しく王座に収まったのは中東のテロリストだった。それからというもの砂漠を舞台にした映画がたくさん作られるようになった。観ているだけで喉がヒリヒリ焼けるような、暑い映像の連続。これは映画会社が映画館でコカコーラを売りまくるための作戦でもある。
で、最近では中東を舞台にした映画が顕著すぎるぐらいだ。『ワールド・オブ・ライズ』ではディカプリオが砂漠の中央でひたすら立ち続けさせられたし、『グリーン・ゾーン』ではマット・デイモンが汗をふきふき銃をぶっ放し、『ハート・ロッカー』ではああもう観てるだけで暑苦しい耐爆スーツ、『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』はペルシャで砂、『300』ペルシャ人が極悪、観てないけど『セックス・アンド・ザ・シティ2』はラクダに乗りまくり、傑作『キングダム/見えざる敵』ではラストのショットですべてがひっくり返ることで背筋が凍る。で、なんだっけ? ともかくだ。中東がブームなんだけど、なんかもういいやって感じなわけ。つまり、こうやって中東を食傷気味にさせるのが映画会社の陰謀なわけよ。現在の中東情勢から目を逸らさせるためなのだ。なわけねーだろアホか。どいつもこいつも硬直化してるだけだ。
あぁ、中東だ宇宙人だ隕石だ津波地震だ雷だと強大な敵をいっぱい作り上げてきたけど、やっぱいちばん怖いのはロシア親父。というわけでグルッと回ってハリウッドは『ソルト』でまたロシアに戻ってきたとさ。ロシア人監督の『ウォンテッド』で魅力的な役を演じていたアンジーを主役に据えて。
で、ソルトおもしろかったよソルト。アンジェリーナ・ジョリーはロシアの帽子がよく似合う。
あと、この映画でアンジェリーナは基本的に感情をあまりあらわにしない役をやってるんだけど、一回だけ感情を表に大きく出してしまうシーンがある。隠そうとしても隠しきれない心の動揺。しかしすぐさま表情を元へともどす。でなければ自分の命が危ない。そしてその後の目的を遂行できないから。そのためアンジーは感情を一気に胸へと仕舞う。
そのさまに胸が強く打たれた。そうなんだよ、号泣だとかアイゴーだとか、そんなに涙を大きく出さなくても、観客はちゃんと感動できる。だから全国公開してる邦画たちは、盛大に涙を用いる演出からそろそろ卒業してもいいと思うの。映画はもっと観客を信じなきゃ。そして観客も映画を信じればいい。