恥とマスは掻き捨てナマステ

ヨーグルトが好きです。アートと映画と音楽と野球は、もっと好きなようです。

暴力の重低音。

ジョニー・トーの「エレクション」と「エレクション死の報復」を観ました。新宿はバルト9、タマフル映画祭とかいうイベントで。
「エレクション」は以前にテアトル新宿で観ましたが、劇場未公開の「エレクション 死の報復」は未見。
で、まずは「エレクション」。

ひさしぶりに観たけど、やっぱりすごくよかった。とにかくこれでもかってぐらいに画面が暗い。登場する奴らの顔には影が常に差している。人と言うよりも、ひたすら闇が蠢く映画。これぞまさしく黒社会
終盤、会長選挙に敗れたディーが、バーでロク会長を待っている。バーの表にはさんさんと日光が注いでいる。しかしバーの中は暗く、スタンドライトの明かりだけで浮かび上がるディー。かっこいい。このあと、ロク会長が到着し、バーに入る。やおらシャッターを閉めるディー。それからディーがとる行動もかっこいいのだ。あと、釣りっていいよね。

で、続けて「エレクション 死の報復」。
まず始まってビックリした。画面がとっても明るい。始まりは外の川べりなので、明るくて当たり前なんだけど、1と画面の質感がぜんぜんちがう。室内のシーンに移り、ロク会長とその取り巻きたちが丸テーブルで食事している。これまたすっごく明るい。1のときの室内であれば、光源なんてものはひとつあれば十分。しかし、2では煌々と照明があたり、すべてが白日の下にさらされている。2はデジタル上映ってのもあるんだけど、それにしても画面がおそろしく明るい。本当に同じ監督の映画か?っていうぐらい。宇多丸トークによると、カメラマンがちがうらしい。撮り方も1のときは切り返しを巧みにずらしたショットが多かったように思うんだけど、2では素直な切り返しが多い。
画面が明るくなったせいか、どこかおかしみにあふれている。とはいっても、出てくるマフィアたちのやることといったら暴力、暴力、殺人、死者に鞭打つ暴力と、ただただ残虐なものばかり。しかし、思わず笑みがこぼれてしまうようなユーモアさが全編に漂っている。
ニック・チョン扮する殺し屋が、真っ昼間の街中で目出し帽をかぶり、肉切り包丁的な刀を持ってターゲットを襲うシーンなんて、おかしくってしょうがない。あと、車内で行われる壮絶なモグラ叩きゲームは絶対外せないおもしろさ。やたらとトンカチの音がリズミカル。そしてとっても重低音。重々しく痛々しい、オモイタしい音の連続。
そういえば“犬に肉”シーンで、でっかいハンマーを振り下ろしまくってたときもひどく重低音。
この映画では、音の行為がどんどんエスカレーションしていく。ロク会長のライバル・ジミーが、長老と話をしているとき、背景ではサッカーが行われており、球を蹴り合う音。その後、ジミーはジムでボクシング。拳で殴り合う音。ほかにも棺桶を閉じる音とか。そして、ハンマーやトンカチで叩きまくる音。しかし、すべてが終わったあと、ある人物が山の上で振り上げる拳は、なんと無力で、かくも弱々しい音だろうか。ともかく。暴力の重低音は、ぜひ劇場で体感してもらいたい。
1と2、どっちが好きかといわれれば、ノワール感たっぷりの1が好き。でも、おかしみあふれる2も、これはこれであり。どっちにしろ2作連続で観るのがとってもいいです。