恥とマスは掻き捨てナマステ

ヨーグルトが好きです。アートと映画と音楽と野球は、もっと好きなようです。

女が髪をむすぶ、たったひとつの理由。

押井守『勝つために戦え!〈監督篇〉』という本で、宮崎駿の「未来少年コナン」について、こんなことを語ってた。

コナンが寝ているラナのために鉄板で日陰を作るっていう有名なレイアウトがあるんだよ(第八話『逃亡』)。地平線が一本描いてあるだけなんだけど、すばらしいレイアウトなの。


参考:≒010734≒

どんなレイアウトなんだろうと興味がわき、いい機会なので、初めてコナンを観ました。ぜんぶ。で、押井守が絶賛するレイアウトはこれ。

正しくは「ラナのために鉄板で日陰を作る」のではなく、ラナとの初めての出会いを再現するために、砂浜で寝ているラナのところへ、コナンが鉄板を背負ってきたっていうのが正しかったんだけど、そんなことはともかく。
実はこのレイアウトに至る前に、とってもステキなシーンがある。そのシーンがあまりにステキすぎたせいで、正直このレイアウトに関してはどうでもよくなっちゃった。そのステキなシーンとは。
敵の船から逃げ出せたコナンとラナ。しかし、後ろ手を鉄骨もろともに手錠されているコナンは、海中へと沈んでいく。やがて息が続かなくなり、ぐったり。

ラナがコナンの名を叫ぶ。

ラナはコナンへ空気を送るために。

キス。
コナンとラナは、恋人というより、仲間・友人・戦友と呼んだほうがよい関係。そんなふたりの関係が、作中で唯一、一瞬だけ性にちょっぴり近づく、海中でのキス。最高のステキッスシーンでした。ところで。
ラナがコナンの名を叫んだときの画。実際、この場面でのラナは、キスの画を見れば分かるとおり、髪をふたつに結んでいるはず。でもこの画のときだけ、髪がほどけてる。これは「千と千尋の神隠し」で、ハクの背中にまたがった千尋が、過去を思い出したときの演出と同じ。

つまり、なにかとてつもなく重要な機縁が女に訪れたとき、女の髪はほどかれる運命にある。そして、ゆらゆらと髪をなびかせなければならないのだ。要するに。
なにかを待つため。
女は髪をむすぶ。
そして。
なにかが来たとき。
髪をほどくのだ。
なびかせるために。