恥とマスは掻き捨てナマステ

ヨーグルトが好きです。アートと映画と音楽と野球は、もっと好きなようです。

キチガイ探偵。

「MAD探偵 7人の容疑者」を観ました。新宿は K's cinema で。

古くからよく知られている通り、名探偵といえばキチガイなのですが、香港の名探偵もキチガイでした。
名探偵役である元刑事・バンの捜査手法は独特で、頭を使っての推理なんて一切しません。加害者や被害者の行動を実際に真似てみることで、犯人がたちどころに分かるという、本邦のミステリで言えば清涼院流水の小説に出てきそうな神っぷりの名探偵です。そうです、キチガイです。なので、森の中で消えた刑事の失踪事件、そしてその刑事の銃を使用して行われた強盗事件。これらの事件を瞬時に解明するかと思いきや、世の中うまくいかないもので、実際に逮捕にこぎつけるには色々と手続きが必要なのでしょう、うんたらかんたら尾行したり証拠集めに奔走したりと大忙しです。神の如き捜査能力を持つ名探偵が主人公ですが、映画は五分で終わるわけにいきません。紆余曲折がなければいけません。そもそも。これは香港映画です。香港映画。脚本なんてどこにもありません。プロットの書いてある紙だけを頼りにしながら即興で撮影していく香港映画なのです。お話の整合性なんてどうでもいい。
ともかく。この映画の名探偵は見ている相手の人格が見えてしまう特異体質でもあります。そうなのです、キチガイです。そして事件の容疑者は七つの人格を持っている。だからサポート役の刑事にはひとりの容疑者がひとりにしか当然見えませんが、名探偵にはひとりの容疑者が七人に見える。このへんの見せ方は映像ならではのおもしろさが充溢していて、すごく楽しい。そして最後、鏡に囲まれた部屋での銃撃戦。実際には四人しかいませんが、鏡の中にたくさんの人格がひしめき合うことで、今までに見たことのない新しく美しい銃撃戦になったのではないかと思えます。
この映画、ジョニー・トーとワイ・カーファイによるダブル監督制なのでどのように撮影してるのか分かりませんが、最後の銃撃戦の映像美、これは硝煙の匂いが教えてくれる通り、もちろんジョニー・トー