恥とマスは掻き捨てナマステ

ヨーグルトが好きです。アートと映画と音楽と野球は、もっと好きなようです。

現世は夢、夜の夢こそまこと。

ならば、まことである夢をスクリーンに映し出す映画も同じくまこと。

というわけで「インセプション」を観た。109シネマズ川崎のIMAXシアターで。*1マトリックス」以上に、精神科医が構造を分析したがる映画の登場。この映画は予備知識なしに観るほうが特に望ましいと思うので、未見の人はこの先、要注意。
インセプション」では、ディカプリオ演じる主人公のコブが、ターゲットである人物の夢の中へと潜り込み、ターゲットの持っている秘密を盗もうとしたり、逆にアイデアを潜在意識に植え付けようとしたりする。そのとき描かれる世界は、まさしく夢の世界。夢と映画の相似性については昔から多くの人が指摘しているが、この映画はそのまんま夢の映画化に他ならない。
夢の中ではコブの妻・モルの姿が幾度となく登場してくる。ターゲットの夢の中とはいえ、夢に潜入している者の意識もそこには投影されていく。なお、モルを演じるのはマリオン・コティヤール。この人、奥さんの役を演じるとひときわ輝くなぁって思う。ティム・バートンビッグ・フィッシュ」やロブ・マーシャル「NINE」とか。あと奥さん役じゃないけど、デヴィッド・リンチディオールのために作った短編「レディ・ブルー・上海」では、謎めいた映像にぴったりのミステリアスな女性っぷりでとてもよかった。

インセプション」で、ミステリアスな奥さんをマリオンは演じていて、決して出ずっぱりではないけど、どの役者よりも強い印象を残す。彼女はコブの記憶の中でのみ生き続ける女性であり、夢の中にしか現れないのだが、誰よりも遥かに美しい。「夢の中」を「映画のスクリーン」と置き換えれば、コブは映画女優そのものでもあるのだ。
記憶の中、映画の中で生き続ける女性を描いた映画で、最近すこぶるよかったものといえば、ペドロ・アルモドバル抱擁のかけら」を思い出す。女性の輝きを繋ぎとめようとするとき、映画(夢)という装置は最高に機能する。
そして「インセプション」が逃げることなく描いたように、その夢(映画)は脆くて儚いものでもある。
最後、コマが回り続けたままのショットで終わるのは、ケレンでもなんでもなくて、この映画の要求レベルを考えれば必然。「インセプション」とは夢の映画であり、そして映画とは夢そのものなのだから。

*1:H列の中央で鑑賞。IMAXで観る場合、視界全体をスクリーンにしたいがため、前方で観るようにしてるが、I列より後ろがよかったかな(自分めも)。